任意整理

任意整理と債務整理の違いについて

はじめに

任意整理と債務整理は言葉こそ似ていますが、具体的にどう異なるのでしょうか。一言でいうと任意整理は債務整理の一手段です。債務整理の方法として、任意整理、破産、民事再生がありますが、任意整理はその中の一つです。

債務整理とは

債務整理とは、契約通りに債務を返済できなくなった場合にする借金の整理のことです。その方法として、上記でふれたように任意整理、破産、民事再生があります。

任意整理の場合はあくまで債権者側の承諾をもとに内容を変更するので利息及び遅延損害金の減額や支払回数は交渉に応じてくれますが、元金の減額にはまず応じません。あくまで元金を弁済することになります。

破産や民事再生は、元金も弁済できない場合に裁判所の関与のもとで、元金を免責することができます。

任意整理とは

債務整理とは、債務(借金)が当初の契約通り返済できないため、債務の内容を変更(整理)することです。

任意整理は、債権者と直接交渉して、その合意によって(よって「任意」です)債務整理をするわけです。上記でも触れているように、将来利息と遅延損害金をカットの上、元金は返済していくこととなり、支払い回数は5年60回での支払いで交渉します。

破産、民事再生とは

一方破産、民事再生は、債務(借金)が当初の契約通り返済債権者はその手続きに関与することはできますが、内容の変更(主に債務の免責)につき、合意によって変更(よって任意ではない)するのではなく、裁判所の審判によって変更されます。

破産と民事再生の違いですが、破産は債務者の総財産(家具等はのぞく)を処分し、すべての債務を免責する手続きです。一方、民事再生は、すべての財産の処分を前提せず、また免責は総債務の5分の1まで減らすことができます。破産と民事再生の違いはいくつもありますが、実務的には、民事再生はマイホームを所持したままできるのが、一番大きな違いです。

司法書士松尾孝紀

 

ギャンブルや浪費しても破産は出来るのか-免責不許可事由の話

 

①はじめに

債務整理の面談するにあたり、依頼者の方がギャンブルをしていたなどの事情があるのに破産は可能でしょうかと心配されることはよくあります。確かにギャンブルでの浪費はいわゆる免責不許可事由に当たるので一見して破産できないようには見えます。でも実は実務上破産の免責は申立の97%以上認められていますといわれています。

個人的な感想ですが、よほどのことがない限り免責は認められると感じています。破産法に「(中略)債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的」(破産法第一条)とあるようにたとえ免責不許可事由があったしても、免責を広く認めているようです。それでは裁判所はどのように債務者の免責を認めているのでしょうか。まずは免責不許可事由を解説していきたいと思います。

②免責不許可事由とは

免責不許可事由は破産法252条1項にて11の事由にまとめられています。
例えば帳簿等の隠滅・偽造・変造(6号)や詐術による信用取引(5号)、破産者が積極的に虚偽の事実を告知したなど)などが挙げられます。他にも破産手続きの裁判所への説明義務違反(8号)などもありますが、そこまで実務上では正直そこまで見かけません。

実務上よく問題となるのは、「特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと(3号)」または「浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと(4号)」の二つだと思います。以下第二百五十二条1項3号と4号を説明していきます

 

免責不許可事由①偏波弁済について

(破産法第二百五十二条1項3号)
三 特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。

 

特定の債権者だけに対する返済を偏波弁済といいます。実務上よくあるのが、各債権者に受任通知を郵送後(この時点で支払不能とみなされます)に、こっそり親兄弟への借金を返済していた場合等です。この場合免責不許可事由にあたるのではと思われますが、本条文は偏波弁済の全てに免責を認めないのではありません。免責を認めないのはあくまで「債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないもの」つまり例えば、弁済期が到来していない債務等に限定されます。よって偏波弁済したからといって免責できないと判断しないようにしましょう。

なお破産上偏波弁済をすると不都合なことがあります。具体的には、否認権の行使といって偏波弁済をなかったことにされてしまう可能性があります(破産法162条)。否認権の行使をされてしまうと弁済したものを返す必要がありますので、返済した方に迷惑をかけてしまうのと、この否認権の行使というのは破産管財人の権限ですので、破産手続は同時廃止ではなく管財事件にされる可能性があります(よって管財費用が余計にかかる可能性があります)

免責不許可事由②浪費または賭博、射幸行為について

(破産法第二百五十二条1項4号)
浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。

まず浪費とは、必要かつ通常の程度を超えた、債務者の全財産状況に対して不相応な支出のこと。賭博とは賭け事、射幸行為とは投機を目的とした証券取引、先物取引を指します。
第二百五十二条1項4号はこれらの行為によって著しく財産を減少させ、過大な債務を負担した場合に該当します。

実務上浪費、賭博もしくは射幸行為による破産はよく見かけます。ではこのような場合は破産が出来ないかといえばそんなことはありません。先にも述べたように免責不許可事由に当たる場合でも裁判所は免責を認めています。ではなぜこのような事情があっても破産することが可能かといいますと裁量免責(破産法252条2項)という制度があるからです。

 

③ギャンブルしても破産が可能 裁量免責

破産法252条2項
前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。

裁量免責とは先に述べた免責不許可事由があったとしても、裁判所の裁量で免責を認めてくれる制度です。そもそも破産法の目的は「(中略)債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ること」です。債務者の更正の可能性があるか、または破産に至ったことを真摯に反省しているかによって裁量免責が認められます。具体的には裁判官との審尋の際に反省の弁を述べることや管財人が付いている場合はその調査に積極的に協力するなどが挙げられます。

ただ先ほども申し上げたようにまず大半が免責を認められているので心配する必要はないと思います。免責が認められなかった事例として地裁レベルですが、返済不能にも関わらず多額の借金をし、ギャンブルや高額な飲食店で浪費した事例などがありますが、よほど悪質でなければ問題ありません。
ちなみに札幌地方裁判所の運用ですが、免責不許可事由にあたるからと言って当然管財事件になるわけではありません。事例によっては免責不許可事由に該当しても同時廃止で終わらせる運用をしております(但し、裁判官の審尋はまず行われると思います)

④まとめ

以上破産免責事由についてでしたが、まとめますとよほど悪質なケースでなければ、まず免責が認められます。ギャンブルや浪費で返済が不可能になった方も破産が可能な場合、一度は検討してみましょう。

司法書士松尾孝紀

参考条文(破産法)

(免責許可の決定の要件等)
第二百五十二条 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
一 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
二 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。
三 特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。
四 浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。
五 破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。
六 業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠滅し、偽造し、又は変造したこと。
七 虚偽の債権者名簿(第二百四十八条第五項の規定により債権者名簿とみなされる債権者一覧表を含む。次条第一項第六号において同じ。)を提出したこと。
八 破産手続において裁判所が行う調査において、説明を拒み、又は虚偽の説明をしたこと。
九 不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと。
十 次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれイからハまでに定める日から七年以内に免責許可の申立てがあったこと。
イ 免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定の確定の日
ロ 民事再生法(平成十一年法律第二百二十五号)第二百三十九条第一項に規定する給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日
ハ 民事再生法第二百三十五条第一項(同法第二百四十四条において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日
十一 第四十条第一項第一号、第四十一条又は第二百五十条第二項に規定する義務その他この法律に定める義務に違反したこと。
2 前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。

任意整理の和解内容

はじめに

任意整理とは、債権者(カード会社等)と話し合いによって返済条件につき和解する手続きです。大体の和解条件として・元金を(今後の利息はカット)・月1回を計60回(五年間)で返済していく条件で交渉をします。

以前は司法書士・弁護士が介入するとかなりの確率にて上記内容で和解できたのですが、現在は60回ではなく36回払いにしてほしい、和解日までの利息をつけて欲しい(以前は弁護士、司法書士の介入の際の利息にて和解)など条件が変わってきてます。
さて任意整理の和解条件はどのような基準で変わるのでしょうか。主に①債権者(カード会社)②これまでの取引の内容③債務者の家計状況によって変わります。

当事務所では、面談する際に債権者と取引内容と家計内容の確認をします。この三つの点を確認することで大体の和解内容の推測をします。但し、各社和解内容を随時変えてきており、面談時の推測と和解時の債権者の主張が異なることはよくあります。

①債権者に関して

まず①債権者(カード会社)に関してですが、和解条件は当然のことかもしれませんが債権者たるカード会社の方針によって大きく異なります。

これまでの当事務所の実績からして、いわゆる地場の資本で経営されている街金、大手銀行などと資本関係にある消費者金融、ショッピングローンの立替払いを行う信販会社の順番に和解条件が緩く傾向にあります。例えば街金は上記の基準での60回払いを認めず24回払、36回払と当然に主張します。また和解締結後の将来利息の支払いを主張してくることも数多くあります。

これらに比べ消費者金融はそこまで条件が厳しくはありません。但し消費者金融は各社方針がかなり異なります。例えば上記の条件は問題ないのですが、司法書士、弁護士の介入後半年もすれば訴訟を提起する債権者もいますし、支払回数を60回認めてくれない会社もあります。一方和解後の利息に関しては請求してこない会社がほとんどです。

そして信販会社は上記の基準を認めてくれるところがほとんどです。和解条件に関してよほどのことがない限りはもめることがありません。

②取引に関して

次に②これまでの取引の内容に関してです。取引の内容とはカード会社と何年間取引したかとか、債務整理で介入するまでの最終の取引の履歴が和解条件に大きく影響してきます。
例えば和解する際に2、3か月しか取引していない方も依頼者の中にいます。お金が回らなくなりどうしようもなく借り入れしてしまったのはわかるのですが、このような取引では返済回数を多くしても返済してもらえないと債権者に判断されてしまいます。また時々借り入れした直後に債務整理の相談をされる方がおりますが、和解の成立すら困難となってしまいます。

 

③家計に関して

③最後に債務者の家計状況によっても和解条件は異なります。債権者各社には大体の和解条件が決められております。この条件内で和解する分には、交渉もスムーズですが、この基準(例えば支払い回数を増やしたい)よりもよい条件で交渉する場合には、債権者から家計状況を求められる場合があります。また逆に債権者が債務者の家計を把握している場合があります。例えばボーナスが年に2回確実に出ると把握されている場合はボーナス時に返済額を増やしてほしいといった主張もされます。

最後に

最後に上記の和解条件ですが、平成31年3月時点での内容となっております。実は年々和解条件が厳しくなっているのが気になります。もしかしたら今までは司法書士や弁護士が過払い金請求で請求する側でしたので、こちら側が優位に立っていたのが、過払い金がほぼ終息したことにより債権者側が強気になっているのかもしれません。

 

司法書士 松尾孝紀