1.はじめに
今回は過払い金の現状についてお話したいと思います。よくCMやテレビ広告で過払い金という言葉を聞くことがあると思います。しかし、令和2年現在では過払い金が発生する事案というのはほとんどありません。当事務所の感覚では、100件に1件あればよい方だと思います。そのような現状にも関わらず、なぜCMやテレビでは過払い金という文言が飛び交うのか、また、そもそも過払い金とはどのようなものかについて考察していきたいと思います。
2.過払い金とは
過払い金とは、過去に高い利息を払いすぎていた場合に、その払いすぎた利息を返還してもらう手続きのことを言います。
よくあるお問い合わせで、たくさん返済をしているのに利息ばかり取られてしまって、元金がほとんど減っていない、過払い金が発生しているのではないかというご相談があります。しかし、取引の状況を確認してみると、実際には過払い金が発生していないことがほとんどです。その理由としては、過払い金が発生する下記4つの主な条件に合致していないからです。
過払い金発生の主な条件 |
① |
平成19年以前からの取引 |
② |
グレーゾーン金利での取引(年利20%を超える取引) |
③ |
キャッシングでの取引 |
④ |
完済してから10年経過していないこと |
上記の条件を見てもらうと、過払い金発生の条件はかなり難しいことが分かると思います。
①の平成19年以前からの取引となると、令和2年現在からみて、約13年以上前からの取引ということになります。
②については、①を満たしていれば(平成19年以前の取引であれば)、大手のカード会社や消費者金融でも、利息制限法の上限利率を超える利息であった可能性があります。ただし、銀行系のカードローンの場合は、古くから利息制限法の範囲内の利息での貸し付けのため、過払い金は発生しません。
③は、ショッピングではなく、キャッシングの場合のみ、過払い金発生の可能性があるということです。クレジットカードのショッピング機能での利用はどんなに古くから利用をしていても過払い金は発生しません。
④について、過払い金が請求できるのは、借金を完済してから10年以内です。その期間を経過してしまうと、過払い金は時効になるため、過払い金が取り戻せなくなってしまいます。
3.なぜ今でもCMやテレビで過払い金の公告をよく見るのか
過払い金公告をよく見かける理由としては、主に下記二つが考えられます。
【主な理由】
① 大手弁護士事務所・司法書士事務所の競争の激化
② 過払い金の返還期限が迫っているため
①について、平成12年頃から弁護士事務所・司法書士事務所の公告規制は解除されました。それまでは、過度な広告により依頼者に誤解を与えたり、依頼者の利益を損なってしまう恐れがある他、弁護士・司法書士が広告するなんて浅ましいというような考え方があったようです。
公告解禁後少し経つと、過払い金返還バブルが到来しました。資本力のある大手事務所が案件獲得のため、テレビやラジオ広告を行ってきました。この過払い金返還の手続きというのは、案件にもよりますが、一般的に高度な法律スキルが求められる業務ではありません。しかし、手数料は高く、利益率が高い案件になるため、事務所運営的には、是非とも獲得したい案件です。そのため、各事務所が競争するように公告をどんどん増やしていったという状況だと思われます。
②については、先にお話ししたように、過払い金には時効があります。借金を完済してから10年で時効になり、それ以降は過払い金請求が出来なくなってしまいます。例えば、2010年12月31日に完済した方は、2020年12月31日までに過払い金請求をしないといけません。このように、過払い金請求には返還期限があるため、その内容を全面に押し出し、CM視聴者の関心を得るようにして、広告効果を上げているものと思われます。
過払い金を取り戻すには、2007年以前からの取引で、借金完済後10年以内の取引である必要があるため、今後十年もすると、過払い金案件は、格段に減ってくると思います。
そこで、大手の事務所は、残り少ない過払い金案件を獲得するため、最後の公告競争をしているように思われます。
4.最後に(事務所選びのポイント含む)
大手事務所の公告で過払い金請求というものは、多くの方に認知されたものと思います。現在では過払い金が発生する案件はかなり少なくなっておりますが、もし過払い金発生の可能性がある方は早めに手続きをした方が良いと思います。完済から10年経過で時効になってしまいますし、カード会社が倒産してせっかくの過払い金が戻ってこない可能性も0ではありません。
過払い金返還手続きをお考えの際には、費用体系が明確で資格者(弁護士・司法書士)がしっかりと対応してくれる事務所が良いと思います。CM公告を行っている大手の事務所では、多額の公告費用が掛かるため、その分を手数料に上乗せしていて、費用体系が分かりにくい事務所もあります。また、お客様との打ち合わせを資格者ではなく職員が対応する事務所もあるようです。知名度だけではなく、しっかりとした説明・対応を行ってくれる事務所を選ぶのが良いと思います。
司法書士 平石 悠亮