2019年 2月 の投稿一覧

借金がゼロになる、消滅時効の話

1.消滅時効とは

唐突ですが、時効と聞いてどういうイメージがあるでしょうか。
多くの方は罪を犯して一定期間逮捕等されなければ罪に問われないのを時効だとイメージされているのではないでしょうか。

もちろん、こちらも時効なのですが、これは「公訴時効」といって刑事事件、例えば物を
盗んだ、人を傷つけたといった刑事事件で適用されます。

それでは、お金を貸して、10年以上お金を返してもらってないが、お金を返してもらえないのかという事例があるとします。この場合は民法上のことですので「公訴時効」は適用されませんが、民法上の「消滅時効」が適用される可能性があります(旧民法第167条、追記参照)。つまり「消滅時効」を使うとお金を返してほしいと主張する権利が「消滅」してしまうのです。これは消費者金融会社とその利用者の関係も同様です。特に消費者金融会社は商法(旧商法第522条、追記参照)の適用があり、権利を主張できるときから5年で時効が成立します。

2.消滅時効の注意点:訴訟を起こされた場合

但し注意が必要なのは時効には、中断といったものがあることです。借金を返したり、金融業者が裁判上の手続きを採ったりしたときは一からやり直しです。また時効期間が過ぎたからといって自動的に成立するわけではなく、債権者側に時効の成立を主張しなければならないなど気を付けることもあります。

実務上よくあるのが、最終取引より五年が経過していたので時効が成立していると思っていたが、実は訴訟を起こされていた場合です。訴訟を起こされていた場合は、判決等が確定した日より10年間時効期間が延びてしまいます。お客様さまからの相談で最終取引より五年経過しているので、消滅時効ではないかとのご相談をよく受けますが、この場合債権者側が判決等を所持している場合がよくあります。実は消滅時効が使えるかどうかは、債権者側に確認して、判決等債務名義を所持しているか確認してみないとわかりません。

3.消滅時効の注意点:時効が成立するのに返済してしまった場合

また他のケースとして、時効期間が経過している場合に、時効のことを知らずに、借金を返済してしまった場合や借金の存在を承認した場合があります。もし、時効成立前に返済した場合や承認場合は法律上時効の援用は難しいのですが、時効成立後になると時効の援用が認められる可能性があります。なぜかといえば時効成立後の返済時に時効の援用が認められない理由は、「信義則」に反しているからと裁判所が言っているからです。

「信義則」とはお互いの信頼関係を守りましょうということです。つまり「信義則」反しなければ時効の援用が認められることになります。具体的には、債権者から時効の援用を妨げるために、時効期間経過後、時効の成立の可能性を伝えず、一回のみ少額の返済を受けたことなどは、信義則に時効援用できる可能性が高いといえます。

あと業者側から時効の援用ができる案件にもかかわらず、訴訟等に出てくることはよくあります。もちろん業者は時効の援用ができることは伝えません。これを放置すると時効が援用できなくなる可能性があります。訴訟を起こされた場合は自分で解決しようとせず、必ず専門家に相談することをお勧めします。

司法書士松尾孝紀

(令和2年6月追記)令和2年4月1日より法改正があり、時効の条文に大幅な変更がなされたが、施行附則10条1項,4項より、改正前に発生した債権もしくは行為に基づく債権の消滅時効に関しては従前の通りとしている。よってしばらくの間は当記事はそのままにしておくが、念のため条文は旧商法、旧民法と令和2年改正以前のものを記載する。

債務整理の面談義務

債務整理の面談義務

最近、「債務整理の依頼をしたいのですが、忙しくて事務所まで行くことが出来ません。メールのやりとりだけで依頼できませんか。」というお問い合わせを受けました。お客様のためにも是非力になりたいと思ったのですが、「一度直接お会いして面談する必要があるので、何とかお時間を作っていただけませんか。出張対応も可能です」とお答えしました。その結果、検討するということで話は終わりました。

上記の他にも、「遠方のため事務所まで行けない。他の事務所はメールや電話対応だけで債務整理を対応してくれるところがあるみたいだ。」というお問い合わせを受けることがあります。

債務整理を行う際には必ず面談をしないといけないのでしょうか。結論としては、司法書士が債務整理を行う際には、面談義務があります。その根拠についてご説明いたします。

 

司法書士の債務整理事件に関する面談義務の根拠

日本司法書士会連合会の「債務整理事件の処理に関する指針」(平成22年5月27日改正)というものがあります。

(参考URL:http://www.shiho-shoshi.or.jp/archives_info/26791/

この指針の一部を抜粋します。

 

(目的)

第1 この指針は、司法書士の行う債務整理事件処理が債務者の生活再建に重要な役割を果たしていることから、債務整理事件における司法書士の不適切な事件処理を防止し、もって深刻な社会問題となっている多重債務問題の解決に資することを目的として、債務整理事件の処理にあたり配慮すべき事項を定めるものである。

 

(面談)

第5 債務整理事件の依頼を受けるにあたっては、依頼者又はその法定代理人と直接面談して行うものとする。ただし、次に掲げる場合等合理的理由の存する場合で面談以外の方法によって依頼者本人であることの確認及びその意向が確認できるときは、この限りでない。

(1)従前から面識がある場合

(2)依頼者が現に依頼を受け又は受けようとしている者の保証人(連帯保証人を含む。)で ある場合で、債権者の厳しい取り立てを速やかに中止させる必要があるとき

(3)依頼者が離島などの司法過疎地に居住する場合で、債権者の厳しい取り立てを速やかに 中止させる必要があるとき

2 面談においては、負債の状況、資産及び収入の状況並びに生活の状況等の現状を具体的に聴き取り、依頼者の置かれた状況を十分に把握したうえで、債務整理事件処理及び生活再建の見通しを説明するものとする。

上記「債務整理事件の処理に関する指針」第5を根拠として、司法書士には債務整理事件を受任する際には面談義務があります。

なお、債務整理を行っているのは司法書士だけではなく、弁護士も行っております。弁護士にも債務整理を行う場合の面談義務があります。その根拠は、「債務整理事件処理の規律を定める規程」の第3条です。お客様と弁護士自らが面談することが規定されております。

(参考URL:https://www.nichibenren.or.jp/contact/cost/legal_aid/saimuseiri.html

 

まとめ

上記のように、弁護士・司法書士には債務整理を受任する際には必ずお客様との面談義務があります。これは、お客様の個別事情をしっかりと確認し、お客様へ十分に納得していただける手続の進め方や費用の説明をするため、また本人確認の観点からも必須です。

面談義務を果たしていない事務所では、懲戒請求を受けるケースが考えられます。最悪の場合、事務所の業務停止ということで債務整理手続きが打ち切られてしまい、お客様ご自身に不利益が及ぶ可能性があります。

メール・電話・郵送だけで手続きを進めてくれる事務所は親切なように思えますが、司法書士会、弁護士会のルールに違反している可能性があります。債務整理手続きをどの事務所に依頼するかお考えの際には、面談義務があるかないかを一つの指針にするのも良いと思います。

 

司法書士 平石 悠亮